やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

『最悪の結果』を前提に、物事を組み立てるべき解散総選挙終盤戦


 俺たちが青春をかけている解散総選挙も終盤に差し掛かり、あと数日で泣いても笑ってもという状況になってきておりますが、幹事長・森山裕さんが「自公で過半数」という異様に低い勝敗ラインを敷いて盤石の居座りを狙ったにもかかわらず面倒くせえことになってきております。

 個人的には担当もしていて一番心配していた東京選挙区ほか都市部ではまあまあ自由民主党も公明党も踏ん張って思ったよりは議席が確保できそうな一方、出口調査では保守王国であるはずだった長崎を筆頭に宮崎以下比例投票先で立憲民主党に負けるという惨憺たる状況に陥っております。これは非常に厳しい。

 それに呼応するように、目下40ちょっとの「激戦区」を見込む選挙区で自公が12勝28敗と惨敗模様であることから、当初思っていた自民党の当選ライン193議席プラス激戦区という見積もりさえ下回る展開になっていて何ともはやという感じになっています。

 まあ… 敗戦模様であるのは致し方なく、そこで「ボク言いましたよね」と胸を張ったところでクソの役にも立ちませんので、手元の数字を見ながら与党としては1議席でも多く拾うために投開票日までのわずかな日程でリソースを全部激戦区に突っ込む方向で頑張ろうという話になっております。もちろん、それに先立って、何としても勝つんだという石破茂さんがご自身で記したという『檄文』も出回り、与党も野党も有権者からの貴重な一票を獲得するべく奮励している状況と言えましょうか。

 中でも、立憲民主党の新代表に就任した野田佳彦さんは、立憲本部の選挙方針として、徹底的に自民党の裏金(未記載)問題を追及する戦術に出ています。数字で見る限り、これは必ずしも功を奏していないのですが、一方でこれといった明確な経済政策や社会保障・安全保障での政策目標を持たない立憲からすると、それを言っておけば余計な公約を掲げることなく選挙戦を戦い抜けるという中長期的に意味のある戦いぶりになっています。最初見たとき「え、そこに集中するの」と思いましたし、実際に街頭演説の調査に派遣した野鳥の会が挙げてきたデータで言えば野田さん以下各位はもっぱら自民党批判に時間を費やし、政治とカネの問題を繰り返し聴衆に訴えることで自公政治に対する怒りを有権者に喚起させようというノリになっています。

 終盤にきて、自民党の「非公認議員」に対して2,000万円の政党助成金が入金されているというネタまで赤旗が突っ込んできました。もちろんこれは、政党の運営の仕組みとして政党本部が選挙活動を担う各地域の支部に対して表のカネとして適法に資金を投下しているだけですので、違法性はもちろんなく、手続き的にも問題ないのですが、有権者からするとやっぱり自民党のカネの使い方はおかしいのではないかという懸念を抱かせるには充分ですし、野党陣営もネタが尽きそうな選挙戦終盤で攻めるネタが(仮にそれがいちゃもんであったとしても)確保できたというのは大きいのではないかと思います。

 そして、これらの政治ネタをやればやるほど、そこまで立憲には得票として積み上がらないものの既存政党に対する有権者からの批判は高まります。その点では、インディー政党に何故一定の人気が集まるのかと言えば、ネットde真実をうっかり信じる人たちの煽動だけでなく、自由民主党や公明党、立憲民主党、日本共産党など、古式ゆかしい政党政治に対して不信感が強まっているので、こういうところに投票したくないので仕方なくインディー政党に票を投じる行動に出ることは一定の割合で起きるのだろうと思っております。

 結果として今回はインディー政党としての実績(?)を持つNHK党も参政党もあまり冴えない状態ですので、比較的既存政党としての手あかのついていないれいわ新選組や日本保守党にまあまあ比例票が集まる構造になっているのではないかと思います。これは、れいわ新選組や日本保守党に支持が集まったというよりは、既存政党がそれ以上に駄目なものとして有権者から認識され、それへの忌避として追い風がこれらのインディーに吹いたのだとしか説明がつかないのではないか、と思っています。

 他方で、都知事選で石丸旋風とかいうよく分からないものを起こした石丸伸二さんと同じような現象として国民民主党に対する声望が高まっているのが特徴的です。当初は11議席ぐらいで終わっちゃうのかなと思っていたら、俄然比例票が集まり始めて都市部を中心に議席を積み増し、最終的には21議席から25議席ぐらい確保しておかしくないという状況にまでなってきました。

 これらの中身については、期日前出口調査を見る限りでは概ね「30代以下(39歳以下)の若者層」と「まあまあ所得のある中間勤労層・子育て層」とを中心に立憲民主党支持の流れがあるように見られます。ただ、政党として本当に支持しているのかと言われると未知数なうえ、ネットでは人気のある玉木雄一郎さんや榛葉賀津也さんに対しては思われているほどの知名度はないというのが実情です。政治に関心のない大多数の有権者からすれば、玉木さんや榛葉さんに対する声望がどうというよりは「自公や立憲共産ではない何か」という解像度で国民民主党がそれっぽいことを言っているしいいんじゃないかという以上の投票行動にはなっていないようにも見受けられます。

 で…、今日になって、自公政権が過半数を割ったときの連立政権の組み先問題において、ちょっと「大きく負けたときに維新しか連立打診先がないのではないか」という状況になってきました。というのも、国民民主党が躍進して仮に22議席ぐらい確保できたよという話になったとしても、衆院過半数233議席のうち自公確保が211議席に届かないぞという可能性が出てきているからです。これはもう蓋を開けてみないと分からないことですから、いまの段階であれこれ申し上げられる確定的なものは何もないのですが、ここで維新にも連立自体は蹴られて閣外協力に留まった場合、首班指名で『野田佳彦』以外を書くことを条件に交渉が決着すると羽田内閣なみの少数与党となるか、立憲民主党を中心とする政権交代が実現してしまいます。

 これはこれで有権者がそう考えて選んだ結論なのだから文句の言いようもありませんが、政治的には大変に不安定で予算を通すのも重要法案を審議するのも与野党でかなり話し合いをして行かないと政治が回っていきませんので、これはこれで異常に大変なことだろうと思います。
 

 
 この動画を撮影したのが23日深夜だったんですが、24日になってそこからさらに2ポイントぐらい低い数字が流れてきて「えーー……」って感じになっているのは仕方ないところですが、こりゃあまあいっそ自民党も下野あり得るぞという前提であれこれやるしかないですね。

 なお、勝敗ラインを大きく割ってしまった場合には、当然のことながら石破茂政権は選挙後の内閣改造を行わずに総辞職になる公算が高くなってきています。早ければ28日総辞職で林芳正暫定政権でも爆誕して宇野宗佑チャレンジ(69日)どころか伊東正義臨時代理(35日)を割る、歴代最短命政権になっちまいます。被害担当艦ってレベルでもなく爆裂することになるんですよね… そして林芳正暫定政権へ。

 党務としては、当然幹事長の森山裕さんは戦犯になりお役御免、選対本部長だった小泉進次郎さんも責任を問われて自ら降りる形になり、後任どうするのってなるでしょうが、その後すぐに自民党総裁選が再び取り行われますので、祭事長としての役割をリリーフでこなすということになれば臨時総理に就任される林芳正さんが幹事長職を兼ねるということになるのでしょうか。

 28日総辞職、森山裕幹事長詰め腹、林芳正暫定政権、自民党総裁選が11月14日か22日、次に高市早苗さんが総裁に就任される可能性があるのだとすると、自民党も解党的出直しを余儀なくされるという意味では「自民党をぶっ壊す」というより普通に有権者の不信を買って選挙に負けて勝手に自滅して壊れたという感じになるのでしょうか。

 どっちにしてもここから始まる敗戦処理の序章は荘厳であるべきで、いまのうちから最悪のこともあり得る前提でいろんなことを事前に考えておく必要があるんじゃないかなあと思うんですが、私もいつまで砂かぶりに座っているのかも良く分かりません。さすがに、もうどうにでもなーれと言えるレベルの話でもなく、さてどうしますかねえ…。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.456 解散総選挙終盤に寄せて思うことをあれこれと語りつつ、なにやら動向が気になるイノベーション系投資界隈やAI界隈にツッコミを入れる回
2024年10月25日発行号 目次
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【0. 序文】『最悪の結果』を前提に、物事を組み立てるべき解散総選挙終盤戦
【1. インシデント1】『LUUP躍進』ほか、イノベーション系投資界隈をどこまで温存すべきか
【2. インシデント2】生成AIと原発の蜜月はやってくるか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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